【保存版】LLMプロンプトNG集:倫理・バイアス・セキュリティリスク回避リスト

はじめに

このリストは、大規模言語モデル(LLM)を業務、特に企画・マーケティングやコンテンツ作成などで活用されている、またはこれから活用しようとしているビジネスパーソンの皆様を対象としています。

LLMは非常に強力なツールですが、使い方によっては意図せず「倫理的な問題」「偏見(バイアス)の助長」「セキュリティリスク」「著作権侵害」などを引き起こしてしまう可能性があります。このリストでは、そうしたリスクを回避し、LLMをより安全かつ効果的に、そして安心して活用いただくために、プロンプト作成時に特に注意すべき「避けるべき表現・指示」を具体的なNG例とその理由、改善のヒントと共にまとめました。

日々のプロンプト作成時にこのリストを傍らに置き、チェックリストのようにご活用いただくことで、潜在的なリスクを未然に防ぎ、LLM活用の自信を深める一助となれば幸いです。


カテゴリ別:避けるべき表現・指示リスト

1. 倫理・バイアス(公平性の欠如・ステレオタイプの助長)

LLMは学習データに含まれる偏見を反映・増幅させてしまうことがあります。特定の属性(性別、年齢、人種、国籍、職種など)に基づいた固定観念(ステレオタイプ)を強化するような指示は、不公平な結果や差別的な表現を生むリスクがあります。

「男性の営業担当者向けの、力強いセールストーク例を作成して」
なぜ問題か?:
  • 性別によって特定の話し方や能力を結びつける、性別によるステレオタイプを助長する恐れがあります。
  • 「力強さ」を男性特有のものと捉え、女性や他の性別の営業担当者には適さないかのような印象を与えかねません。
  • 結果として、多様性を尊重しない、偏ったコンテンツが生成される可能性があります。
改善ヒント/OK例:
  • 性別を特定せず、役割や目的に焦点を当てましょう。
  • 「新規顧客向けの、説得力のあるセールストーク例を作成して」
  • 「クロージング率を高めるための、効果的なセールストークのポイントを教えて」

「〇〇国の人向けの、ユーモラスなマーケティングコピーを考えて」
なぜ問題か?:
  • 国籍や文化によってユーモアのセンスを一般化・固定化するのは、文化的ステレオタイプに基づいた偏見につながる可能性があります。
  • 特定の国民性を揶揄したり、不快にさせたりする表現が生成されるリスクがあります。
  • 多様な個人が存在する中で、特定のグループを一括りにするのは不適切です。
改善ヒント/OK例:
  • ターゲット層の興味関心や文化的背景をより具体的に、かつ敬意を持って指定しましょう。
  • 「〇〇(製品・サービス)に関心のある層向けの、親しみやすいマーケティングコピーを考えて」
  • 「ターゲット市場の文化(例:特定の祝日、慣習など)を尊重したマーケティングメッセージのアイデアを出して」 (※ただし、文化利用は慎重に)

「いかにもエンジニアっぽい、専門用語を使った自己紹介文を書いて」
なぜ問題か?:
  • 「エンジニアらしさ」を特定のイメージ(例:専門用語を多用する、コミュニケーションが苦手など)に固定化し、職業によるステレオタイプを強化します。
  • 個々のエンジニアの多様な個性やコミュニケーションスタイルを無視することになります。
改善ヒント/OK例:
  • 役割や伝えたい内容に焦点を当てましょう。
  • 「ソフトウェアエンジニアとして、私の技術スキルと経験が伝わる自己紹介文を作成して」
  • 「技術的なバックグラウンドを持つ読者にも、平易な言葉でプロジェクトの概要を伝える文章を作成して」

2. セキュリティ(機密情報漏洩・不正利用誘導)

LLMへの入力情報は、モデルの学習やサービス提供者による分析に使用される可能性があります。機密情報や個人情報を直接プロンプトに含めることは、情報漏洩のリスクを高めます。また、LLMにシステムの脆弱性を突くような指示(プロンプトインジェクション)を意図せず与えてしまう可能性にも注意が必要です。

「以下の顧客リスト(氏名、メールアドレス、購入履歴を含む)を分析して、優良顧客を特定して」
なぜ問題か?:
  • 氏名やメールアドレスなどの個人情報(PII)、および購入履歴といった機密性の高い顧客データをLLMに入力しており、情報漏洩のリスクが極めて高いです。
  • 利用規約によっては、入力データが学習に使われたり、外部に流出したりする可能性があります。
改善ヒント/OK例:
  • 絶対に機密情報や個人情報は入力しないでください。
  • データを匿名化・抽象化するか、ローカル環境で分析するなど、別の安全な方法を検討してください。
  • (抽象化した場合): 「購買頻度が高く、購入単価も高い顧客セグメントの特徴を分析するための一般的なアプローチを教えて」

「社内システムへのログイン手順を、初心者向けにわかりやすく説明して」
なぜ問題か?:
  • 具体的なシステム名やログイン手順は、組織内部のセキュリティ情報に該当する可能性があります。
  • 悪意のある第三者に知られた場合、不正アクセスの足がかりとなるリスクがあります。
改善ヒント/OK例:
  • 内部情報を含む手順の説明はLLMに頼らず、公式マニュアルや社内担当者に確認しましょう。
  • LLMには一般的な操作方法のヒントを求める程度に留めましょう。
  • 「一般的なWebアプリケーションで、二段階認証を設定する手順の概要を教えて」

「このテキスト(※機密情報を含む社内文書)を要約して」
なぜ問題か?:
  • NG例1と同様、機密情報を直接LLMに入力しており、情報漏洩のリスクがあります。たとえ要約目的であっても、その内容が外部に渡る可能性は否定できません。
改善ヒント/OK例:
  • 機密情報を含む文書の扱いは、社内ポリシーに従ってください。
  • LLMを利用する場合は、機密情報を含まない部分だけを抽出・編集してから入力するか、公開情報のみを扱うようにしましょう。
  • 「(公開されているプレスリリースなど)この公開文書の要点を3つにまとめて」

3. プライバシー(個人情報の不適切な扱い)

セキュリティリスクとも関連しますが、特に個人情報(PII: Personally Identifiable Information)の取り扱いには細心の注意が必要です。本人の同意なく個人情報をLLMに入力・処理させることは、プライバシー侵害や関連法規(GDPR、個人情報保護法など)違反につながる可能性があります。

「社員の田中一郎さんの経歴を基に、推薦状の下書きを作成して」
なぜ問題か?:
  • 特定の個人の氏名や経歴といった個人情報を、本人の明確な同意なくLLMに入力・処理することはプライバシー侵害にあたる可能性があります。
改善ヒント/OK例:
  • 個人名を伏せ、役割やスキルといった抽象的な情報に基づいてテンプレートを作成する依頼に留めましょう。
  • 「ソフトウェア開発プロジェクトでリーダーシップを発揮したメンバー向けの、推薦状のテンプレートを作成して。特に問題解決能力とチーム貢献を強調する方向で」
  • 具体的な内容は、後で安全な環境で本人が追記・編集するようにしましょう。

「競合企業の担当者、佐藤さんのSNS投稿から、最近の関心事を分析して」
なぜ問題か?:
  • 公開情報であっても、特定の個人の情報を収集・分析する目的でLLMを利用することは、プライバシー感覚として不適切とみなされる可能性があります。ストーキングやプロファイリングに近い行為と受け取られかねません。
  • 氏名などの個人情報を直接指定して分析を指示するのは避けましょう。
改善ヒント/OK例:
  • 個人ではなく、業界トレンドや一般的な顧客ニーズの分析に留めましょう。
  • 「(特定の業界)における最近の技術トレンドについて、公開情報から分析して」
  • 「BtoBマーケティング担当者が注目すべき、最新のオンラインマーケティング手法を教えて」


5. 誤情報・ハルシネーション(幻覚)助長

LLMは、事実に基づかない情報や、もっともらしい嘘(ハルシネーション)を生成することがあります。事実確認がされていない情報を鵜呑みにしたり、LLMに断定的な表現を求めたりすると、誤った情報が拡散されるリスクがあります。

「〇〇(未確認の健康法)が絶対に効果があるという前提で、そのメリットを強調する記事を書いて」
なぜ問題か?:
  • 科学的根拠のない情報や未確認の情報を事実であるかのように断定させると、LLMはそれらしい理由付けをして誤情報(デマ)を生成・拡散する可能性があります。
  • 特に健康や医療に関する誤情報は、読者に深刻な悪影響を与える可能性があります。
改善ヒント/OK例:
  • 事実確認を求めるか、仮説や意見として扱うように指示しましょう。
  • 「〇〇(健康法)について、現在わかっている科学的根拠や、専門家の意見を調べてまとめて」
  • 「〇〇(健康法)が注目されている背景と、考えられるメリット・デメリットについて、中立的な立場で解説する記事の構成案を作成して」
  • 生成された情報は必ずファクトチェックを行いましょう。

「来年の市場動向について、景気は確実に回復すると断定して予測レポートを作成して」
なぜ問題か?:
  • 未来の出来事、特に経済動向のような不確実性の高いものについて断定的な予測を求めることは、LLMにハルシネーション(もっともらしい嘘)を生成させる典型的なパターンです。
  • 根拠のない楽観論や悲観論は、ビジネス上の意思決定を誤らせるリスクがあります。
改善ヒント/OK例:
  • 複数のシナリオ可能性として提示させるか、現在のデータに基づいた分析を求めましょう。
  • 「現在の経済指標に基づき、来年の市場動向について考えられる複数のシナリオ(楽観、中立、悲観)を提示して」
  • 「〇〇業界の市場動向に影響を与える可能性のある要因をリストアップし、それぞれの影響度を考察して」
  • LLMの予測はあくまで参考情報とし、専門家の分析や信頼できるデータソースと照らし合わせることが重要です。

6. 有害コンテンツ生成リスク

LLMが悪用されたり、不適切な指示を受けたりすると、差別的、暴力的、非倫理的、あるいは危険な内容を含む有害なコンテンツを生成してしまう可能性があります。意図的でなくとも、曖昧な指示や配慮に欠ける表現が、予期せず不適切な出力を引き起こすことがあります。

「競合製品Xの欠点を、皮肉たっぷりに指摘するレビュー記事を書いて」
なぜ問題か?:
  • 他者を貶める、攻撃的な内容(誹謗中傷)の生成を指示しており、倫理的に問題があります。
  • 企業の評判を傷つけ、法的な問題に発展するリスクもあります。
  • LLMの利用ガイドラインで禁止されている可能性が高いです。
改善ヒント/OK例:
  • 自社製品の利点や独自性肯定的かつ建設的にアピールすることに焦点を当てましょう。
  • 「当社の製品Yが、競合製品Xと比較して優れている点(機能A、サポート体制Bなど)を、顧客メリットを明確にして説明する文章を作成して」
  • 「顧客が製品選択で重視するポイント(価格、性能、使いやすさなど)を挙げ、それぞれにおいて当社の製品Yがどのように応えられるかを説明して」

「〇〇に関する、ちょっと過激でバズるようなジョークを考えて」
なぜ問題か?:
  • 「過激」「バズる」といった曖昧で扇動的な指示は、文脈によっては差別的、攻撃的、または不快感を与える可能性のあるコンテンツ(有害コンテンツ)を生成するリスクを高めます。
  • 特に、特定の属性、信条、社会問題などを対象としたジョークは、意図せず多くの人を傷つける可能性があります。
改善ヒント/OK例:
  • ユーモアを求める場合でも、誰も傷つけない、ポジティブな方向性を明確に指示しましょう。
  • 「自社製品のあるあるネタで、クスッと笑えるような短いコピーを考えて」
  • 「ターゲット顧客が共感できるような、日常のちょっとした失敗談をユーモラスに表現して」
  • 生成された内容は、公開前に必ず複数の視点からチェックしましょう。

まとめ

このリストは、LLMを安全かつ倫理的に活用するための第一歩です。プロンプトを作成する際には、常に以下の点を意識することが重要です。

  • 公平性: ステレオタイプを助長していないか?
  • 機密性: 個人情報や社外秘情報を含んでいないか?
  • 遵法性: 著作権やプライバシーを侵害していないか?
  • 正確性: 誤情報や断定的な表現を求めていないか?
  • 健全性: 有害なコンテンツの生成につながる指示ではないか?

LLMは進化し続けますが、それを使う私たち自身の倫理観と責任感が、その価値を最大限に引き出し、リスクを最小限に抑える鍵となります。このリストが、皆様のより良いLLM活用の一助となることを願っています。